Infinitely Together

森本 千絵 × 松任谷 由実 森本 千絵 × 松任谷 由実

松任谷由実さんのアルバム『POP CLASSICO』(2013年)や
『宇宙図書館』(2016年)のアートワークを手がけた森本千絵さん。
プライベートでも交流のあるふたりが、
時間とクリエイションについて熱く語り合った。

印象に残る「時間」

森本: 今回は「時」をテーマにお話をうかがうのですが、そもそも由実さんの音楽のつくり方って、時の流れが一直線ではないですよね。

松任谷: 印象に残る時間というのは、わりとすぐ近くにあるものだから。時間の感覚は、年表通りには進んでいないのね。音楽もネット配信の時代になって、CDのリリース時期とは関係なく50年代の音楽も80年代の音楽も、いま出合って新鮮なものは近くに感じるじゃない?

森本: 「タイムマシンツアー」はまさにステージが時計の盤になってましたよね。

松任谷: あれはデビューから45年間のハイライトのようなもので、過去のステージのオムニバスみたいになりましたね。実際、ステージを文字盤に見立てて何時の方向に何歩で歩くとか、演出上も時間を読んでました。

森本: 中央にはタイムマシンの鍵みたいなものがあって。

松任谷: 3次元も4次元も超えて世界を開く鍵。「時間の旅」というのはずっと共通してるテーマで。時計というモチーフが、私の中で通底音のように流れています。

森本: 今回、フランク ミュラーの新作動画に取りかかる企画段階で、「タイムマシンツアー」にはすごく影響されました。

松任谷: 森本さんがつくったこの動画、すごい好き。日時計とか砂時計とか、人が針になっていたりする。ハートビートも時計であるわけだし、時の要素がすべて入ってる。フランク ミュラーって、数字が特徴的ですよね。

森本: このアニメーションを一緒につくったエストニアの作家は、この数字のデザインは月の光で映った影をなぞってできたんじゃないかって言うんです。

松任谷: ロマンティックだね。数字ってキャラクターがあるじゃない? 私は個人的に11という数字が好き。12という完全な数のひとつ手前であり、素数というのが魅力。

森本: 時計って瞬間的にそちらの世界に入ってしまう感覚がある。特にフランク ミュラーの場合はその魔力が強くて、操られるような感覚。

松任谷: 私は時計を必ず着けているけど、アナログ時計が好き。針の動きを読めることが大事で、45分を指していたら90度で残り15分とか、視覚化できるのがいい。

森本: 針の角度で時間が読めるっていうのはありますね。音楽に関しては、由実さんほど時を行き来して創作するミュージシャンはいないのではと思います。

松任谷: 好奇心が強いのね。いろんなものを見てインプットしてるから、マンネリに陥りそうになって追い詰められても、自分の中の引き出しが開いてアイデアが出てくる。年代や場所は関係なく。すっかり忘れたと思っていた引き出しが、まったく新しい輝きをもって目の前に現れたりする。過去の匂いとかテクスチャーみたいなものが、映画のワンシーンのように浮かび上がってくるんです。

森本: テクスチャーって言葉を大切にされてますよね。

松任谷: 目に見えないものにほとんどの情報があるから。この世で目に見えていることはごく一部にすぎない。

森本: そうですね。

( いざな ) われる、「時間」への旅

松任谷: 時間で印象に残っているといえば、1986年にダカール・ラリーに同行した経験があって。1カ月間かけてサハラ砂漠の奥のほうまでクルマで旅をしたんです。手付かずの砂地に、テーブルマウンテンみたいな天然のオブジェが突如現れたり。信じられないような風景が広がっていて、距離感がまったくつかめない。どこをどのくらい走ったかわからないから時間の概念が狂ってくる。遠くで竜巻が起こってうわーっと近づいてくるかと思うと、ふっと手前で消えたり。

森本: 時は距離感とか関係性で測れるものなんですね。

松任谷: あと、極限の状態でしか見ることができない世界ってあるじゃない?宇宙飛行士や一流アスリートが見た世界って、経験した人でないとわからない。そういうことをできるだけ知りたいって思う。

森本: 極限の世界からこちらに帰ってきた時、色彩感覚も変わりますよね。由実さんの音楽は色のパレットもすごく幅が広くて。

松任谷: 音楽って色や時間を立体的に伝えられる唯一のジャンルだと思う。私はいつも、「音楽は時間をデザインする行為」って言ってるんだけど。

森本: 『宇宙図書館』のアートワークを考えた時も、常に「時」がテーマでしたよね。

松任谷: キーワードは「懐かしい未来」。どんな曲をつくる時も、思い出や希望、時間を意識します。未来を予想すると同時に、過去の自分がいまの自分を支えてくれていると感じるのね。『ひこうき雲』なんて16歳の時につくったのに、いまになって改めて気づくこともあるんですよ。

森本: 16歳の時は、逆に未来からサインを受けていましたか?

松任谷: そうね。霧の中でかすかな光を求めて前ヘ前へ向かっていく感覚。心をよくすましていると、かすかなものが見えるんです。逆にいろんなものが見え出すと、正しい光を見失う時もある。

森本: フランク ミュラーが「ラグジュアリーとは、自分のためにゆっくりと時間を使うこと」と言っているんですが、由実さんにとってそのような時間ってどんなものですか?

松任谷: 過ぎ去ってみれば、あれは贅沢な時間だったってことのほうが多いかな。昨晩は霧がすごく深くて、夜中に外に出て空を見上げてたの。じっと見てるとここにもあそこにも星が増えてきて。霧の中の星を見ているような、日常のなにげない時間もまた贅沢だと思うんです。

霧のように茫洋としたこの世界で、耳をすませ、目をこらして音を紡ぐ松任谷さん。次はどんな時間の旅へと誘ってくれるのか、私たちはいつもわくわくしながら待ち続けている。

VANGUARD GRAVITY SKELETON

VANGUARD GRAVITY
SKELETON

ヴァンガード グラビティ スケルトン

“重力からの解放”

最新鋭のテクノロジーと独自に培われた複雑時計の高度な技術を融合し、それを極限にまで突詰めた無重力トゥールビヨン。惑星が公転するように旋回するトゥールビヨンがスケルトンの文字盤上で回る様子は、まさに無重力の宇宙空間を見ているようです。

ヴァンガード グラビティは、これまでのトゥールビヨンのシステムの設計とは大きく異なり、革新的で奇抜なアイデアによって開発されました。それによってテンプに特殊な可動域をもたらす事に成功しています。大きく楕円型に盛り上ったX型のトゥールビヨンブリッジの空間には、従来の2倍もの重さの巨大なY型ケージ(籠)が納められています。その中で可動する心臓部のテンプは、ガンギ車が内側に切られた歯車のレール上に沿って回ります。

そして、1分間に一周するケージの中で、さらに中心軸から外れたテンプが回転しながら空間を旋回するのです。これによって従来のトゥールビヨンシステムより、姿勢差から生まれる重力の誤差をより多く平均化しキャンセルする。いわば、重力を“無かった事にする”という理論です。

ヴァンガード グラビティ スケルトンは、この、「GRAVITY=重力」というテーマの時計を、さまざまな角度から突詰めた最終形体というにふさわしいモデルです。

従来の装飾を否定し、時計の顔である文字盤はおろか、ムーブメント自体の地板を極限まで削り、必要最小限の骨組みだけを残すことに挑戦しています。トゥールビヨンという極めて繊細なコンプリケーションウォッチでありながら、シンプルな機能美全としたインダストリアルデザイン(工業意匠)という、相反する矛盾を抱えた複雑時計を完成させる事は、作り手にとっては最も過酷な作業である事は想像に容易いところです。しかし、そこに現れた最終的なその構造体には、最早これ以上、抜き差しならない程、均衡した美しさとオーラが放たれています。

SPEC

  • 手巻き
  • チタン
  • 時分針、トゥールビヨン
  • 日常生活防水
  • 53.70 x 44.00 mm
PRODUCT No.
V45TGRAVITYCSSQT TTNRBRER
PRICE
¥19,525,000-

Yumi
Matsutoya

松任谷 由実

シンガーソングライター

通称ユーミン。1954年1月19日東京都生まれ、72年、多摩美術大学在学中にシングル「返事はいらない」でデビュー。73年、ファースト・アルバム『ひこうき雲』をリリース。女性シンガーソングライターの草分け的な存在に。
2018年9月より、過去45年間のライブを元に新たに組み立てなおした「タイムマシーンツアー」を開催。全40本の公演を完走。
現在400曲を超える楽曲を配信中。

Chie
Morimoto

森本 千絵

アートディレクター

株式会社 goen°主宰。コミュニケーションディレクター・アートディレクター。 大学卒業後は博報堂へ入社、その後2007年株式会社 goen°を設立。企業広告をはじめ、松任谷由実、Mr.Children のアートワークやテレビ番組のポスターデザインほか、映画や舞台の美術、動物園や保育園の空間ディレクションなど活動は多岐に渡る。著書に10年『うたう作品集』(誠文堂新光社刊)、15年『アイデアが生まれる、一歩手前の大事な話』(サンマーク出版刊)、18年同書・中国版『想法誕生前最重要的事』がある。

photographs by Masato Moriyama(TRIVAL)
styling by Akane Makihara
hair&make-up by Naoki toyama(iris/YUMI MATSUTOYA),Haraguchi Saki(BEAUTRIUM/CHIE MORIMOTO)
text by Junko Kubodera