Infinitely Together

森本 千絵 × 小林 武史 森本 千絵 × 小林 武史

森本千絵さんがMr.Childrenのベスト盤のアートワークのプレゼンテーションで
小林武史さんと出会ったのは2001年のこと。
当時、博報堂で新人だった森本さんのアイデアを、小林さんは面白いと即採用した。
ふたりはその後もずっと仕事をする間柄だ。

「時」のビジュアライズ

森本: あのプレゼンは、かなり緊張感漂うものでした。

小林: 今日もそうなんだけど、あの時はちょうど通っているプールから上がったばかりでね。ほとんどの企画にダメ出しして、最後に千絵ちゃんの企画を見たらこれは面白いと。

森本: Mr.Childrenのベスト盤の新聞広告は、紙面に水が数滴落ちて、裏面から文字がにじんで見える一瞬を捉えたもの。対照的に、ポスター版の広告で使われている沖縄の防波堤の写真は景色としてずっと残るものなんです。あの時は、時間を面白くビジュアル化したいと思っていて。死んでいない時間を感じさせるものをつくりたかったんです。

小林: あの防波堤は、公共の場所に個人の思いが書き連ねてあって、そこにはいろんな時間が重なっている。パブリックなキャンバスに時間が堆積された時、コミュニティが生まれるんだと思う。ミスチルがデビュー以来、多くの人の心に響かせてきた、時間の堆積を感じさせるビジュアルになったよね。

森本: その後、クルック(※1)の仕事でもご一緒させていただいて、時間をシェアしたり可視化したりすることを体験させてもらいました。石巻(※2)でも子どもたちとの時間を共有することで、描いては足してまたつくって。時間を積み重ねることで新しい像が見えてきました。さらに小林さん、千葉県木更津市のクルックフィールズ(※3)では土から未来をつくってますよね? 身体をつくるための食づくりから始められて。もう命をコラージュしているというか、いろんな時間がひとつになっている。

小林: すべての出来事は一つひとつ区切られているのではなくて、つながっているわけで。僕たちが暮らす社会を考えてみると、問題は環境に現れている。音楽業界はちょっと遅れてバブルがやってきたんだけど、90年代の後半、右肩上がりの経済がずっと続くわけないって思っていた頃、YEN TOWN BANDとかミスチルと、結構ディープな音楽をつくっていたんです。そうこうしてたら、2001年にニューヨークで同時多発テロが起こって。そこからやっぱり行動しなくちゃダメなんじゃないかと思ったよね。

森本: Mr.Childrenのアルバム『IT’S A WONDERFUL WORLD』のあとに、ap bankでいろいろな活動を始められましたよね。

小林: ずっと音楽を仕事としてやっていると、それを再生産するよりも、どこかで違うかたちで還元したいという思いがあって。経済によって蓋をしていた世界の痛みとか弱い存在に対して、知らないふりして放っておくことはできないと。ただ、僕たちの場合は過激な方向に行くのではなく、多様な意識をもつ人たちが共振できるところを探している。みんなの心を響かせるっていう姿勢を大切にしているんです。

※1 2003年、環境に配慮したプロジェクトに融資する非営利団体、ap bankを立ち上げた小林さんが、実社会の経済の中で実践する場として05年に始動。オーガニックレストランやオーガニックコットン事業などを展開する。

※2 2011年の東日本大震災による被災地支援の一環として、宮城県石巻市で総合祭Reborn-Art Festivalを開催。アート、音楽、食の祭典を共有しながら町を再生していこうという試みだ。

※3 クルックの活動の集大成ともいえるクルックフィールズは、食べるという行為を中心にさまざまな体験ができる施設。千葉県木更津市の30ヘクタールの大地には自然エネルギーによって運営される農場や宿泊できる施設、レストランなどがあり、各種フィールドでサステイナブルな体験ができる。

さまよえる「時」の大切さ

森本: 小林さんが発する言葉には、立場の違う人たちに響くものがあるんです。ところで小林さんは時間をどのように捉えていらっしゃいますか?

小林: たとえばいま、僕が取り組んでいるクルックフィールズだったら、日常の時間感覚を超えたような場所になるといいと思っている。できれば宿泊して、時間と場所をさまよってほしい。ふと腕時計を見ると、自分がさまよっていたことに気づくような。スタジオワークで音楽つくっている時も同じで、時計によって現実時間に戻るという感覚。

森本: さまよってる時に時計で時間をチェックすると、ここはどこ? みたいな感覚になりますよね。

小林: それがスマホだとただの情報になっちゃう。時空をサーフしている時は、時計が自分の鏡のようになるんだ。

森本: 泳いでいる時も時間感覚って変わりますよね。水の中ではどのように時を計っているんですか?

小林: 僕は毎日泳いでいるから、その感覚はいつも違う。大体1kmを17分で泳ぐんだけど、その感じ方が毎日違っていて。いろんなことを考える時もあれば無になっている時もある。水中では自分と向き合っている。

森本: 水中って音も独特ですしね。

小林: 1分時計があるとすると、25mを50秒で泳ぐとして、同じ距離を40秒で泳ぐと誤差が生まれる。そうやってずらしていくと同じ距離を時計何周で泳いだかみたいなことを考え出して、モチベーションが上がるんだよ。  

森本: 小林さんが時計つくったら面白そう。今日着けていらっしゃるフランク ミュラーは「カサブランカ」ですね。

小林: これはシンプルなデザインが気に入ってるんだけど、次に買うならブラックボックスみたいに複雑な時計がいいかな。

小林さんに着けてもらったのは、ランダムに数字が並ぶ文字盤によって時の概念を解放した「クレイジー アワーズ」。分針がひと回りすると時針が次の時間を示す位置へジャンプする仕掛けに驚く小林さん。

小林: すごいね、これ。時間がジャンプするって感覚はわかる気がするな。フランク ミュラーってファンタジックな世界の中にもプログレッシブ・ロック的な要素も感じる。鉄の塊というか、ロック的なもの。たとえばミュージシャンでいえばデヴィッド・ボウイみたいなね。ものすごくクリエイティビティが豊かなんだけど、鉄の弦をジャキーンってやってるんだぜっていう。

森本: 硬質なものとツヤっぽさが同居している。

小林: 鉄の弦や機械を自在に操って、想像力を羽ばたかせている。

森本: そういうストーリーを感じてもらえる人にこそ、着けてもらいたい時計です。

音楽という限りなく自由な世界で、多くの人の心を響かせる小林さんは、その延長線上にある環境問題への取り組みやコミュニティ活動によって、さまよえる時間の大切さを提起する。同時代に生きる私たちもまた、日常の時間を解放して想像力の翼を広げたい。

CRAZY HOURS

CINTRÉE CURVEX
CRAZY HOURS

トノウ カーベックス クレイジー アワーズ

“時からの解放”

クレイジー アワーズは、時の概念についてまったく新しいアプローチで創作されました。

それは、ごく当たり前に慣れ親しみ使ってきた、12時間に分割された時の在り方を打ち破った腕時計です。60分間で1回転する分針が正時を指すと、時針は、現時刻から次の時刻へ瞬時にジャンプします。クレージー アワーズの文字盤に配列された数字は、通常とは異なり、変則的に並べられ表示されます。斬新な時針の動きは、クレイジー アワーズのオーナーにとっては、愛用しているうちに独自の意味を持つようになることでしょう。

1日が24時間(12時間制)に分割されたのは、ファラオが君臨した古代エジプト時代のことです。以来、文字盤の数字や刻印は、デザインを変えることはあっても役目を変えることなど、ただの一度もありませんでした。しかし、時刻の読み取り方に現代的な発想を加えてみることは意義深いことでした。インデックスの配列を自由に考えることは、複雑時計に異彩を放つ時計師だから可能になったことです。

時間は、他の誰のものでもなく、自分自身だけの極めて個人的な価値を持つものです。何にも縛られない、自由闊達な時間の創作。それは、日常生活を独創的に過ごすための得難い自由を手に入れることでもあります。

SPEC

  • 自動巻き
  • 18Kピンクゴールド
  • ランダムに配置されたインデックスに正時になると瞬時に時針がジャンプして時を示す
  • 日常生活防水
  • 45.00 x 32.00 mm
PRODUCT No.
5850CH
PRICE
¥3,465,000-

Takshi
Kobayashi

小林 武史

音楽家

1959年山形県生まれ。80年代からサザンオールスターズやMr.Children、My Little Loverなどの楽曲プロデュースを数多く手がける。一方で2003年に“サステイナブルな社会”をテーマに取り組む非営利団体「ap bank」を、06年にレストラン等実店舗をともなった「クルック」をスタート10年には農業生産法人「耕す。」を立ち上げ、食の根幹である一次産業として 農業に着手。音楽と食やアート、農業をつなげる活動にも力を注いでいる。

Chie
Morimoto

森本 千絵

アートディレクター

株式会社 goen°主宰。コミュニケーションディレクター・アートディレクター。 大学卒業後は博報堂へ入社、その後2007年株式会社 goen°を設立。企業広告をはじめ、松任谷由実、Mr.Children のアートワークやテレビ番組のポスターデザインほか、映画や舞台の美術、動物園や保育園の空間ディレクションなど活動は多岐に渡る。著書に10年『うたう作品集』(誠文堂新光社刊)、15年『アイデアが生まれる、一歩手前の大事な話』(サンマーク出版刊)、18年同書・中国版『想法誕生前最重要的事』がある。

photographs by Yuichi Sugita
hair&make-up by Koichi Yamaguchi(TAKESHI KOBAYASHI),SHIHO HATTORI(Shiho Hattori/CHIE MORIMOTO)
text by Junko Kubodera